その22(10話)211【博士と助手6】 「博士、あけましておめでとうございます」 「お、山田君か。謹賀、謹賀」 「さっそくですが、今回の発明は何ですか?」 「じゃじゃーん。常識が身につく薬じゃ」 「そ、それはすごい!」 「名づけて、秘薬 “マトモーン” じゃ」 「いつもながらグッドなネーミングですね」 「そうじゃろそうじゃろ」 「服用実験者は、またわたくしですか?」 「それは今回省略しよう。 じつはな、もうロートル製薬と契約済みじゃ。近日発売じゃよ」 ◇ 「博士、すごい売れ行きですね」 「ハッハッハ。田園調布に家が建つ! 古っ!」 ◇ 「博士、たいへんです。マトモーンを服用した人々が 次々に自殺してます」 「ハッハッハ。やはりそうか。 常識が身につき、おのれのこれまでの所業が恥ずかしくなり、 耐えられなくなったのだろう」 「そ、そんな……」 「ごくまともな成り行きじゃよ」 「元旦から縁起でもないですねえ」 「筆者がひねくれているのだろう。ハッハッハ」 --------------------------------------------------- 212 【あの世~悦子の場合】 認知症の悦子が、嫁にさんざん世話になって 最後の眠りにつくと── 「無念じゃあ」 化けて出た。 「きゃああ。か、義母さん」 「このままじゃ成仏できん」 「こ、こないで。あっちいって」 「言い忘れたことがある」 「な、なによ」 「ありがとう」 --------------------------------------------------- 213 【ニッポン人の定義24】 “食っちゃ寝”の正月気分が大晦日まで抜けない人種。 (え、そんなやついないって。じゃ、わたしだけか?) --------------------------------------------------- 214 【来世~洗顔器の場合】 超音波洗顔器が、宣伝ほど効果がないのがばれて 放置されると── 金魚鉢になっていた。 古っ! ついでに、 ぶら下がり健康器具はハンガー掛けに、 磁気ネックレスは子供のおもちゃになっていた。 スタイリーは行方不明だ。 --------------------------------------------------- 215 【ニッポン人の定義25】 人付き合いのために健康を害する人種。 --------------------------------------------------- 216 【わがままのゆくえ】 一人はさびしい。 二人はうっとうしい。 三人はわずらわしい。 おおぜいは騒々しい。 どうすりゃいいんだ。 そうだ、0人になろう。 うっ…… マイナスおおぜいは騒々しい。 マイナス三人はわずらわしい。 マイナス二人はうっとうしい。 マイナス一人はさびしい。 どうすりゃいいんだ。 そうだ、0人になろう。 うっ…… オギャア~。 --------------------------------------------------- 217 【影衣紋(かげえもん)】 掘りごたつに入り、パソコンにむかっている。 ふと目をあげると、正面の障子に洗濯物の影が映っている。 左から股(もも)引き、丸首のアンダーシャツ、ワイシャツ。 それぞれハンガーによって組立て式の物干し竿にぶら下がっている。 ハンガーのフック部には二股洗濯ばさみの影がある。 風でしずかにゆれている。 丸首シャツがワイシャツの肩をたたいた。 ──いい天気ですねえ。 ──うん、そうだなあ。 ──おまけに乾燥していて、風もある。きょうはすぐ乾きそうですね。 ──ハッ、ハッ、ハックショイ。はやく取り込んでもらいたいよ。 ──わあああああ…… 風が強くなり、股引きがくるくる回り出した。 ──た、たすけてくれえ。目が回るぅ…… ハンガーのフック部がきゅるきゅる鳴ってる。 次の瞬間、障子が陰り、部屋が暗くなった。 すぐ明るくなり、また障子に影ができる。 するとどうだろう。 股引きが真ん中になっていて、丸首シャツとワイシャツが ささえていた。 --------------------------------------------------- 218 【来世~金雄の場合】 元事務次官の田丸金雄が、 8回目の自分の送別会の宴会場で、 泥酔したまま永久(とわ)の眠りにつくと── カモメになっていた。 ‘渡り’ができてうれしそう。 --------------------------------------------------- 219 【昼の月】 じいちゃんが死んだ。 ぼくはかなしい。 ぼくはじいちゃんっ子だった。 パパは外国に出張してばっかだったから。 じいちゃんはよくあそんでくれた。 じいちゃんが死んで半年たった。 ぼくはいまでも、やさしかったじいちゃんをおもいだして泣く。 あさの登校のときにも、あるきながらよく泣く。 ──おーい、ゆう太。 あれ、声がしたぞ。 どこだ? ──ここだあ。空だあ。 え、どこどこ? ──こっちだ、こっち。 あ。西の空。 白い三日月が……半月になったぞ。 わあ、切れ長の目がでた。 きょろきょろしてから、こっちをみた。 ──いつまでも泣いてちゃダメだぞ。 じいちゃんだ。しらが頭のじいちゃんだ。 ぼくはあふれる涙をこすった。 そしてもういちど空をみた。 あれれ……ブハッ! じいちゃん、そ、それ、反則だよ。 お尻だすなんて。 ウワッハハハハハハハハ…… --------------------------------------------------- 220 【起源?~宇宙の法則3】 某テロ国家Kが、苦心の末開発した超メガトン級核爆弾を やけになって爆発させた。 それから137億年後、再び発生した人類が、 それをビッグバンと名付けた。 |